些細なことで喧嘩をした。
器用なことに電話越しで。
幸か不幸か、明日はふたりは約束があった。
むぎと一哉、ふたりで会うという約束が…






□ 笑え □






"会う約束"。


それは本当に貴重なものだ。
"普通の恋人"ならば、付き合い始めてすぐは飽きるほどするものらしい…デート、何もないのに会うこと。
けれども、むぎの恋人は御堂一哉という人。
彼は普通とは無縁と言ってもいい人物かもしれないとむぎは思う。
彼の時間はどれほど貴重なものか、むぎは知っていた。
一分一秒が大切な一哉の一時間や一日がどれほど貴重なものか…
デートも、無理に時間をつくってくれたからこそ出来るものであって、たまたま暇だったのでしようというものではないのだ。
だから、デートは断れない。
でも、このままデートをして楽しいはずがない。


謝ればいい。
それはわかっている。
些細なことだからこそ、素直になれない自分がそこにはいた。

本当は、謝りたい。
でも、やはり謝れない。
決して、怒ってはいない。
けれども、不満がないわけではなかった。


寂しい。


些細な喧嘩はただの引き金になっただけで、本当は寂しさが、今回の喧嘩の原因だった。
彼が忙しい身というのはわかっていたがどうしても寂しいのだ。
確かに、一哉と付き合うのには覚悟が必要だといろんな人が言っていた。
覚悟はしていたつもりだった。
けれども、その覚悟はもっと別の意味での覚悟で、決して一哉と一緒にいられない覚悟ではなかった。
時計の針が、とても耳障りだった。
ただ、苦しくて涙が溢れた。
時間というものは酷なもので、待ってはくれない。
もう、約束の時間まで一時間となくなっていた。
今、出かけなくては間に合わなくなる。
けれども、出かける気にはならなかった。
こんなに苦しいんならいっそ…
そんな考えさえ頭に浮かぶ。


こんなにも『好き』が苦しいものだなんて、知りはしなかった。
付き合うことになったとき、楽しいことがこれからたくさんあるのだろうと期待した。
けれど、現実は違った。
あっている間がどんなに幸せでも、その幸せはあっていない間のさみしさに押しつぶされてしまうのだ。


でも、だからと言って断ち切れないでいた。
好きだからこそ。


デートをたくさんすることよりも、甘い言葉を聞くよりも、何よりも…ただ、一緒に。
でも、それが一番無理なんだろうな、とむぎは心のなかですぐ否定をしてしまった。


電話が鳴る。
でも、とりはしない。
「別れ話」なんて出来そうにもないから、「自然消滅」するのを待とう。
電話は鳴り続けた。
けれど、むぎが電話をとることはなかった。







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葵むぎ前提ではなくて普通に一哉むぎ。一話で終わらすつもりが…


07.02.16