しんと静まった理事長室はまるで学校の中ではないようだ。
人の気配もなく、ただ空調の音が聞こえるだけ。
緊張したような空気の中、葵の反応が怖くて、スカート一点をただ見つめていた。
今度こそ、涙が溢れ落ちるのではないか、そう思ったからだ。


「痛い?何故?」


葵の疑問はもっともであった。
上司に優しくされて"痛い"なんて表現するのはとても珍しいことだろう。
むぎもそれに気付いて急いで付け足すように言う。


「私は頼りにならないと言われているみたいで…」


「そんなつもりは」


言葉を遮り、むぎは言う。


「知っています。けれど…」


うまく言葉はでなかった。
少し冷静になれ、そうむぎは自分に唱えた。


「………」


「秘書として頼りないのはわかっているけれど…」


「私が頼りにならないのは苦しい」


むぎは無意識に、そう言った。
とらえようによっては告白だった。
しかし、葵はそうはとらえはしなかった。


「………。…鈴原さんを頼りにしているから秘書になってもらってつもりなのですが」



そう、名目上は教師、生徒の経験のある人だからこそむぎを秘書にという話だった。本当にそうならどれだけよかったか…でも


「でもっ!!」


「中泉に言われて雇ったんでしょ!?」
そう、言いたかった。


でも、言えなかった。


出そうになった言葉をむぎは飲み込む。
…なにをやっているんだろうとむぎは心の中で独りごちたのだった。






休憩を挟み、仕事に戻り、単調ながらも時間は経って、終業時間をむかえた。
休憩以来一言も話さずただ仕事をした。
いつもより集中して。
その分仕事ははやく終わり、暇をもてあましていた。
葵はそれに気付き、言う。


「もう、あがっていいですよ。今日はお疲れのようですし…」


「あ、では…お先に失礼します」


扉を丁寧に閉め、ふと息をつく。
そうするとなんだか気が抜けて、扉を背ににずるずるとしゃがみこんでしまった。


やはり、理事長は優しい。
それなのに、酷いことを言ってしまった。
理事長は今日のことをどう思うだろうか…。


そっと目を瞑ると、涙が一筋頬からスカートへ落ちた。


ああ、そうか。
もう、無理なんだ。
むぎはぽとりと落ちる涙を見ながら、思う。


「私


扉の方に向き、佇まいを直す。
息を詰めて…言葉を放った瞬間の感覚は何とも言えないものだった。


「好きです」


気持ちを隠し、押し込めるのはもう限界なんだと知る。
でも、打ち明けることは今はまだできない。
せめて、届くことはなくても…吐き出すことだけはさせてもらおう。
でも、それで気持ちを落ち着けることも、もうすぐに出来なくなるだろう。そう、心のどこかで思いながら、むぎは御堂家に帰ったのだった。





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なんか尻切れとんぼみたいですが終わりです。

07.02.17