好きだと思うことが罪なのだとしたら、どうすればいいのかな…





□ 罪 □





『好き』になってはいけない相手だって知っていた。
けれども、この気持ちは止める手立てがないのもむぎは知っていた。


一哉と瀬伊に告白されてその気持ちは前よりもよりはっきりと輪郭を持つ。
その想いをむぎは持て余していた。
伝えられない、行き場のない思い。
それの比重はだんだんと大きくなっていることをむぎは自分で感じざる終えなかった。


「どうして…」


どうして理事長なのか。
他の誰を好きになっても誰にも責められることはなかっただろう。
いや、誰もむぎを責めてはいない。
誰にもむぎは話せていないのだから。
誰ってむぎが。
むぎが自分で自分を責めていた。


敵、なのだ。
理事長は、中泉 隆行に荷担している。
中泉は一哉を殺すつもりなのかもしれない。
理事長の…中泉の意図を探らなくてはならない。



それなのに嘘を吐くのが辛いなんて。



一哉君、ごめんなさい。


もう、どうすればいいかわからない。


理事長…が好き。


この気持ちは裏切り。


消せない思い。
消せない罪。





「おはようございます、鈴原さん」


「おはようございます」


こうやって挨拶することすらむぎには苦しかった。


一哉のことは好きだ。
けれど、そこに恋愛感情と呼べるものは一片もない。
友達のように、家族のように好きなのだ。
一緒にいると落ち着くし、困っていれば助けたい。
そういう、気持ちだ。


理事長のことも…


好きだ。


けれど、一哉と違う何かがあった。


それの名前をむぎは知っていた。
けれど、そこに名前を付けるとそれは止められなくなるだろうことをわかっていたから。


敵…を好き。
それだけでこれは罪だ。


そこに更に…そんな言葉を付け足せば、もう御堂家にはいられない。
一哉と…いや瀬伊も依織も麻生とも一緒にいることなんてできはしない。



だめだ…



何時もむぎは、素直に生きてきた。
前以外見ることはなかった。
全力で走ってきた。


それなのに今、むぎは前に進むことはおろか、まっすぐ前を見つめることすらできはしなかった。


この気持ちの先には何があるのか…



「…さん?….…鈴原さん?」


「え、あ。はい?何でしょうか?」


「この資料の清書をお願いしたいんですが、できますか?」


「はい」


真剣な顔で仕事をやる葵に犯罪者のにおいはなくむぎを戸惑わせた。
ニュースを見ていると何時も思うことがむぎにはあった。
みんな、怖い、恐ろしい顔つきだ。
犯罪を犯した者独特の温かみが一片もない目、何か背筋がぞっとするようなものがくる。
彼らは感情の一部分が壊れてしまっているのだとむぎは思う。
ある意味むぎは同情すら覚える。


理事長からはそんなにおいはしないとむぎは思う。
しかし、彼もまた犯罪者なのだ。






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06.05.07