少女の声はまるで神を前にした修道女のような声であった。
空の青さと緑のコントラストがゆらゆら揺れた。
強い風がまだ青々しい葉を落とした。
「え?」
まだ、僕は彼女の言っていることが理解できなかった。
強い風のせいで聞き間違いをしたのかと思ったほどだ。
少女は僕の言いたいことが分かったのか、木から僕の方に目を向け言う。
「ここから見ると木の葉から漏れる日の光がきらきらして、まるでステンドグラスのようだな、と思わない?」
上を見上げると少女もまた木を見た。
「緑一色の?」
ステンドグラスと言えば赤や黄色や青もいるのではないかと思い、言った。
いや、少々意地悪な気持ちもあって言ったのだ。
少女はくすりと笑いこちらを見る。
そして、意地悪ねと言った。
とぼけて、そんなことないよと言うと彼女は今度はクスクスと笑った。
自分が冗談を言っているのに気付き、驚く。
彼女にまるで長い時間を共にした友人のように感じてしまっている自分に気付く。
あまり、人と話さない自分が、そのように思うのは非常に珍しいことだった。
物思いにふけっている間にまた、少女は木を、いや、ステンドグラスを見上げていた。
「緑一面のステンドグラス…。変かな?」
弱々しく、言う。
どうしてそこまでステンドグラスにこだわるのか分からないが…とても彼女らしい発想だと思った。
「ううん。君らしい発想だね」
思いをありのまま言ったら、毒で返された。
その毒が、また、的をついていて彼女はエスパーなのではないかと一瞬疑った。
「今日、はじめて気付いたのに?」
気付いていたのか。
そう、僕は今日はじめて、彼女がクラスメイトだと気付いた。
もう、一学期の終わりだと言うのに、僕は彼女を憶えていなかった。
それは、僕が人の顔を覚えるのが苦手なのと、彼女が学校を休みがちなこと、その二つのせいだ。
今日のスケッチの時間、僕ははじめて彼女の存在を知ったのである。
「うん。それなのに」
『でも、君には何かを感じた、気がした』そんな言葉を飲み込んだ。
「言い訳しないのね」
少女は悪戯に笑って、ひとしきり笑った後、少し泣いた。
学校の知ってる連中も知らない連中も僕を責めるような目で見ていた。
「してほしかった?」
何を、と聞かれ、「言い訳」と答えた。
すると少女はじっと僕の目を見つめた。
彼女の目は赤かった。
泣いていたのだから当然だと言えば当然だけど、そんな目を見たのは久々だった。
僕は罪悪感と共に少女に親近感を覚えた。
そう、この少女は間違いなく僕と同じ、消えそうな人間。
「ううん。私もあなたはそう言ってくれると思っていたから話したの」
涙の浮かんでいない目には、希望が浮かんでいた。
「不思議だね。君は知っていたの?こっちのこと」
「いいえ。けれども予感がした」
「どんな?」
「一緒に木を見て微笑んでくれるような」
あまり笑うことのない少年はいつの間にか笑顔になっていた。
二人は一緒に消えない人間になった。
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無理に終わらせた感が…
06.10.04