暖かいもの、それは葵の手。
掴むわけでも、握るわけでもなく、ただむぎの手を包む。
顔を窺ってみると彼は真面目な顔で自分を見ていた。
むぎも葵をじっと見た。
葵の意図することがわあらなくて…。
すると次は手を掴まれる。
葵の手を握る手は徐々に力を増してゆく。
むぎは無意識に少し顔をしかめた。
どうしたのだろう…
「葵さん?」
そのまま手を引っ張られむぎはバランスをくずし葵の胸に飛び込むかたちとなった。
抱きしめられる力が強くなったのがよくわかった。
苦しいぐらい抱きしめられた。
そんなことは今までほとんどなかった。
どうしたのだろうか。
葵は黙ったまま抱きしめるだけだった。
苦しいけれど、文句のひとつも頭に浮かびはしなかった。
抱きしめられる力より何かもっと違う苦しいものがじっと息を潜めているようなものをむぎは感じた。
いつもなら安心できる葵の匂いが不思議と不安をひきたてた。
「どうしたんですか?」
雨の音に掻き消されそうな小さな声で小さく彼は言う。
「寂しそうだったから。消えてしまいそうだったから…」
消えるなんて…それなら葵の方がいつも消えてしまいそうだった。
どこか不安定で、揺れていて、壊れそうで、不安にさせられるのはいつもむぎだった。
それが、今日は逆だということらしい。
揺れているのはむぎで、その曖昧な揺らぎを不安におもっているのが葵。
不思議で、嬉しくて。
でも、悲しい気持ちも消えてはくれない。
だって、今悲しいのは桜が原因であって葵のせいではないのだ。
「消えたり、しません…」
「なら、どうしてそんな顔をしているんですか?」
「それは…」
どう説明すればいいか。
何故って聞かれたら上手く言えはしないけれど、むぎは答えたくなかった。
桜を見て悲しい気持ちになっていることを。
前向きで、ひたむきで、ただひたすら明るい、鈴原 むぎ。
葵にあるであろう、そのイメージを崩したくなかっただけかもしれないけれど。
自分で自分を見失っているだけなのかもしれないけど。
理由なんて…ないのかしれないけれど………・・
葵の腕の中で顔だけ向きを変えて、桜にそっと目をやる。
葉桜になりかけた桜はある種の眩しさがあった。
葵を見上げると葵もまた桜を見ていた。
雨ばかりが音をたてている。
「私のほうが、いつも怖い思いしているんですよ」
葵はただ、そっとむぎの肩に顔をうずめる。
うずめたまま葵は謝罪を口にした。
すみません、と。
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中途半端なところで切ってすみません。とりあえず、書いたところまで上げておきます…
06.04.26