ぽとりと水面にひとつ、またひとつと落ちていく花。
波紋を残し落ちてゆく彼らはどこか涙に似ている気がした。
雨は嫌いじゃない。
けれど、この時期の雨は特別だ。


この時期の雨は悲しくなるからむぎは嫌いだった…。






□桜雨□






めったにない葵の休日。
桜を一緒に見に行こうと約束をした。
そのずっと楽しみにしていた今日という日は、大雨だった。
ざあざあと耳に入ってくる音は誰かが嘆いている声のようであった。
ただ、ただむぎはその声に耳を傾けていた。




予定が潰れたのはもちろん悲しかった。


そう、今回は特別だったから。
今回のお花見はめったにない葵からの申し出であった。
葵はあまり外に出たがる性格ではない。
いわゆる出不精だ。
それなのに、誘ってくれたことがむぎにはとても嬉しかった。
自分が桜を葵と見たがっているのに気付き、誘ってくれたのが泣きたくなるぐらいに、言葉じゃ言い表せないぐらいに、とても、とても嬉しかったのだ。
その彼の気遣いが無下になってしまったのは本当に悲しい。




でも、それよりもっと悲しかったのは、桜が散ってしまうことだった。
短い期間、勢いよく咲く彼らをみるとむぎはいつも励まされた。






姉がいなかったときも。






葵がそばにいなかったときも。






散ってゆく桜は無理矢理に落とされていっている。
雨によって。
冷たいアスファルトの上に落とされる。




とても悲しい気持ちになった。






「雨、止みませんね」




葵は窓の外を見て言う。
お花見、できませんねと残念そうに笑う葵。
何時もとは少し違う笑顔に、むぎは自分が心配されているということがわかった。
何時もなら元気に振舞うところだった。


しかし、今回はそうしようとむぎは思えなかった。
あまりにも痛い気持ちになったから。
つぼみのまま、花をつけず散ったものをまたひとつ発見したからだ。


まだ、咲く前に…




神様がいるならどうして雨を降らせてしまったのだろう。


彼らが雨によって手折られるのを知らないはずがないではないか。


試練、でも与えているつもりなのだろうか。


命が殆どないのに…そんなことする神なんて。




ふと、意識が手にいく。
暖かいものが手にあたった。







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すみません。一話完結にする予定が狂ってしまいました…これなら、もっと前に上げときゃ良かったですね。


06.04.22