葵はむやみやたらと嘘をつく性格でないことをむぎはよく知っていた。
体温計は本当に最近買われた物。
壊れていない可能性の方がはるかに高いが、葵の体温も測ってみた。
それは正常な数値を表していた。
「なんだかショック…」
本当に悲しそうにうなだれるむぎに葵はそっと諭すように言う。
「普通の人は自分のであれ、人ものであれ体温なんてわからないものなんですよ。そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。その為に、体温計という物があるんですから」
むぎは確かにそうだと思った。
無くなってもたいして困るような特技でもないと。
けれど
どうしてこんな急にわからなくなったんだろうか…
そんな思いばかりが
理由のわからないこと程、大抵の人間は気にするものだ。
むぎも例外ではなく、しっかり大抵の中に入っていた。
「よし、調査してみよう!!」
「え?」
自分の存在を忘れ一人いきりたつむぎを葵は半ば呆れたように見ていた。
高熱が出ているのだからはしゃがれて熱でも上がったら困る。
本当は葵も止めたい。
しかし、この鈴原 むぎというひとはこうなったら絶対にとめられないのを彼は今までの経験で知っていた。
さっそく、むぎはるんるんと鼻歌を歌いながら自分の中の体温計が何故ずれたのかの解明を始めた。
葵はそんなむぎをとんでもなく可愛いと思う。
だが、だからこそ心配で仕方が無かった。
普段から危なっかしいところがあるのに熱をだしてるのだから当然なのだけれど…
「それじゃ、さっそく…今の体温は9度2分と予想…」
葵の心配もよそにむぎは楽しそうにそんなことを言っている。
しばらくして体温計が鳴った。
「あたり〜」
まあ、さっき計ってからそんなに経っていないのだからだいたいあたるだろうと葵は思っていた。
「そんなことより、病院へ行きますよ」
葵は無理矢理むぎの手を引いて病院へ向かった。
その手は葵を心配にさせるには充分すぎる程熱かった。
本当に風邪なのだろうか…
もしかしたらインフルエンザなのではないか、と。
病院に着くとあまり人は居ず、10分もせぬ内に診察を受けれた。
葵の心配はしっかりはずれ、病名は風邪であった。
病院から帰った後、むぎの予想と体温計の音が何度も何度も繰り返された。
さっきやっと葵に意識は向けられたのにもう体温計ばかりかまっている。
少々だが、葵は体温計に怒りさえ覚えていた。
これも嫉妬と言うのだろうか。
「またあったり〜」
酔っ払いのように無駄にはしゃぎながらむぎは言う。
とは言っても葵の努力の結果、ベットの中で暴れているのだが。
しかしまたか、と葵は思った…不思議だ。
驚くことに、むぎの予想は先程から一度も外れていないのだ。
「なんではじめは外しちゃったのかな〜」
そう、むぎの言うとおり、何故はじめ外れたのだろうと思うくらいに体温計の温度と彼女の予想は一致してた。
そっとベットで唸っている彼女に近づく。
時計に目をやると7時すぎ…
今ごろは何時も夕飯を食べている時間ではないか。
何かつくった方がいいのだろうか。
先に夕食をどうするか聞こうか、この謎の解明が先だろうか…
とりあえず、と会話のきっかけを掴むため葵は後者を選んだ。
「また当たったんですか?」
「うわぁっ」
むぎは推理に夢中だったらしく葵がすぐ近くまで来たのに気付いていなかった。
かちこちに固まっている。
「次は、何度だと思います?」
「え、えと…」
あれ、とここでむぎは思った。
これは勘。
勘というのは直感である。
考える必要はない。
考えている時点で勘は勘でなくなりただ、予想しているだけになる。
しかし、今、考えているのだ。
そう、何時もはこんな風に考えたりはしなかった。
先程までも考えるような口ぶりではあったけれど決して考えてなどいなかった。
何故外れるか、それは…
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06.04.06