「もう、いいですから…寝てください」



葵はすっとむぎの両脇に手を回し抱き上げた。
その後の行動は迅速、且つ的確に事務的であった。
むぎをそのまま抱きかかえ、寝室に直行。
そして、有無を言わさずブルベットの中にむぎを押し入れ、寝室にある小さな冷蔵庫の中からミネラルウォーターを出しグラスに注ぎだす。流れるような作業だなとぼんやり思っているとそのグラスを葵はむぎに渡した。


「喉、渇いているでしょう?」


確かに喉は渇いていた。
風邪をひいていることを隠すことで気を張っていた分、急につらくなってきた。
まず風邪をひいているからというのもあるが、何より泣いた後だし…


「あ、ありがとうございます」


こんな小さな気配りが葵らしいとむぎは一人小さく笑った。


いつの間に持ってきたのか葵のわきには氷枕、手には風邪薬と冷●ピタと体温計と喉飴、と大変なことになっていた。
それを鏡台に置いて彼が手渡してきたのは…


「はい、熱を測ってくださいね」


体温計だった。


「いりません。私、正確に自分の体温わかるんですよ」


葵は一瞬驚いた顔をこちらに向け、本当なのかと聞いた。
もちろん、答えはYESだ。
正直、むぎは体温計を挟んだときの冷たさが苦手だ。
これで、体温計のあの冷たさから逃れられると思ったが・・…葵の答えは


「正確になんてないと思います。それに、君が嘘を吐かないとも限りませんし」


と、言うことで体温計でちゃんと測ることになった。
挟んだ瞬間の冷たさに鳥肌が立つ。


「ちなみに、君の中の正確な体温計は今何度なんですか?」


葵は試すような口調で聞いてきた。
むぎは少し考え、こう答えた。


「……………8度5分です」


「そうですか」


体温計の無機質な音がした。
測り終えた体温計自分は見ず葵に渡す。


「ね?8度5分でしょ?」

不自然な間が空いた。


「いいえ、違います」


「嘘!!」


大きな声を出した為たんが喉につまり激しく咳をむぎはした。
そんなむぎの背を葵は撫でながら怒った。


「嘘なんか吐いていません」


不信な目をむけるむぎに葵は体温計を差し出しながら言う。


「9度3分…解熱剤を飲んだら、病院へ行きましょう」


確かに体温計には9度3分の文字が浮かんでいた。
それを見ても、未だむぎは信じられなかった。


自分の勘がはずれるなんて…


「どうして…?」


「はずれることもたまにはあるんじゃないですか?勘なんでしょう?」


いや、今まで幾度となく熱を出してきたがどれもぴったり言い当てられた。
勘と言うよりあれは自分のもって生まれた絶対音感でなく絶対温感であった。
それが、何故、急に狂うんだ。


「体温計が壊れてるんじゃないでしょうか…?」


「いいえ、最近買ったばかりですからそんなはずはありませんよ?」





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06.04.02