「…お前、ちゃんと飯食ってるのか?」


そう聞かれれば晩御飯は食べていなかったかもしれない、とむぎは思う。
食べることを最近はよく忘れていた。
そして、たまに思い出しては異常な量を食べ、戻す。
そんなことの繰り返しだったが、それもほとんど無意識でやっているためむぎは食べていたかどうかもよくわからなかった。
ただ、学校に行くと夏実と食事をすることになるのでそれでなんとか昼食はほとんど毎日食べていたということだけはよく覚えていた。
今にも倒れんばかりの青い顔、細い腕を見て保険医に病院へ行くようにと執拗に言われたのをむぎは思い出した。


「ああ…そういえば、病院行ってない」


むぎは口に出すつもりはなかったのだが、いつのまにか呟いていた。
一哉はその言葉をどう受け止めたかは知らないが、目を見開きむぎの腕を強い力でつかんだ。


「い、痛いよ…」


そう、むぎが言っても、まるで聞こえていないようで手の力は弱まらずむしろ強くなっているようにさえ思えた。
ただならない雰囲気に離してとも言えず押し黙ると一哉は手の力を緩めて言う。


「病気なのか?」


誤魔化したいとむぎは思うが腕に感じる痺れと、まだ離してくれないという現状を考えると誤魔化しは効きそうにないとどこか冷静な部分が言っていた。


「多分…過食症、気味」


可能性を言葉に出すことを恐れながらもむぎは言った。
どこか戸惑いを隠しきれずに。


「気味…?」


「毎日吐いてるるわけじゃない」


そう言うと一哉は立ち上がってむぎの腕を引っ張った。


「病院へ行こう」


拒否しようと思ったのに、一哉の声が震えいてそれができなくて誤魔化すように早口で言う。


「…まだ、3時だよ。掛かりつけのお医者さんは閉まってる」


言い訳が空気をピンと張らせた。
言い訳はやっぱり言い訳だと一哉にばれたようで、誤魔化しの言葉も、もう思いつかず首をただ横にふった。
沈黙が部屋の中を支配して、一哉の視線が怖くて俯いてしまう自分を叱責するが、やはり一哉の方に顔を向けることは出来なかった。
沈黙が怖くて口を開こうとすると一哉は静かに手を離し言う。




「なら、どうしてこうなったか聞こうか」


























あまりに静かに言われて、言葉をむぎは失った。




先程よりずっと重い空気があたりを占めた。







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千の言葉よりも一の言葉に全てを奪われるってことはよくありますよね。


07.04.14