テレビの音は静かな家に響いた。
一人暮らしも慣れていたはずなのに、少し寂しくなった。
人肌が恋しいというのはこういうことだろうか…
なんだか急に怖くなって電話を掛ける。
「もしもし…夏実?」
「すず?」
「今日はごめん」
あれから、予定では映画に行くことになっていたが、中止になってしまった。
あまりにもむぎの目が赤かったから。
そして、夏実の目も少し赤くなっていたからだ。
映画にあてられなかった時間は、むぎの話をただ黙って夏実が聞くこととなった。
まだ、寒い春風の中、ベンチに腰掛けてじっと聞いてくれたのだ。
そこには無償の優しさがあった。
むぎは親友の存在に感謝し、同時にないがしろにしていた自分を反省した。
例え、どんなことであっても夏実には話しておくべきだったと後悔したのだ。
だから、やっと今更だけれども…今までのことを、むぎは夏実に全て話した。
今まで黙っていたことを怒られるかと思ったが、予想は外れ、彼女は、辛かったね、気付けなくてごめんね、と呟きながら涙を流す。
本当に、むぎはただこんな親友を持てて良かったと思った。
「ううん。私、嬉しかった。話してくれて…ありがとう」
どこか少し元気がない夏実の声。
泣いていたのだろうか…。
夏実を苦しめているのは、悲しませているのは自分だ。
「夏実……ごめん、ごめん、ごめんね」
むぎはただ、ひたすらに謝った。
それ以外の言葉をまるで忘れたように。
それが更に夏実を苦しめるものになるとも知らず、ただただ。
「謝らないで…親友でしょ?」
「でも…だからこそ」
「なら、尚更謝らない。私はあんたが元気になってくれればいいんだから。それより、ありがとうは?」
冗談めかしに励ましの言葉をくれる友。
彼女の気持ちが心に染み渡る。
優しさが、温かみが痛みもともないながら広がる。
「…ありがとう」
「うん」
―――――ピーンポーン
遠くで玄関のチャイムが鳴った。
遠くと言っても音は近く、自分の家のチャイムであることに違いはない。
けれど、何故か聞きなれていたはずの音は何だかよそよそしいものに感じる。
それは長い間、御堂家にいたせいかもしれないし、最近はお客があまり来なかったからかもしれない。
しかし。こんな夜遅くに誰であろう…
この家には自分以外誰もいない。
とりあえず出なくては…
「あ、ごめん。お客さん来たみたい」
「こんな遅くに?」
夏実は怪訝そうな声で呟く。
確かに普通、こんな時間には客もセールスマンも来はしない。
「知らない人だったらでないでおきなよ?まずはのぞき穴から見るのよ」
なんだか最近妙なぐらいに夏実は心配性だとむぎは思う。
さすがに、むぎもそこまで子供でない。
長い間一人暮らしをしているのだ、そこまで軽率な真似はしないのを夏実もわかっているだろう。
それでも言ってしまうほどに、最近の自分は危なっかしいとむぎは気付いていなかった。
少しあきれたような声でむぎはわかっているよと返事をした。
―ピンポーン
またチャイムが鳴る。
今度は急いだように短く響く音。
「…?また鳴った?」
「うん」
――ピンポーン
またチャイムが鳴った。
まだかと言わんばかりにチャイムを鳴らす。
せっかちな人だ…
しかし、この様子では、お客はきっとそれなりに仲の良い者であろうと予測がついた。
普通、あまり仲のよくない人の家のチャイムを何度も連続して鳴らしたりはしないだろう。
「なんだか急いでいるみたいね」
「うん、こっちから掛けたのにごめんね。じゃ」
「じゃ」
電話を切った後、むぎは急いで玄関に走った。
何だか予感がする。
悪いものではなく、良いほうの予感。
夏実の注意も忘れ、むぎは穴をのぞかずに扉を開けた。
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閑話というか…序章が終わった…かな?
06.05.18