季節は冬を過ぎ春が来て。








□ 涙の落ちる場所 □









空が晴れていたので私はむぎを誘い出した。
むぎは今も落ち込んでいる。
苦しんでいる。
むぎはでもそれを見せようとはしない。
親友の私にも、彼女の同居人だったラ・プリンスと呼ばれる彼らにも。
一人で全て抱え、乗り越えてゆこうとする様は勇ましい。
けれど。
たまには相談してくれてもいいんじゃないかと夏実は思う。
独りで全て抱えるなら、まるで自分は必要ないみたいじゃない。
親友どころか友達じゃないみたいじゃないか。
何処までも危なっかしいのをあなたは気付いてないかもしれないけれど。


皆、あなたを心配しているんだよ。




「なつみ?」


そっと心配そうに覗いてくるむぎの顔はこちらが心配になるくらい青かった。
前よりずっと痩せた体は骨っぽくて、泣きたくなる。
どうして、私はこんなに無力なんだろう。
親友はいつも怖い思いをしても、自分はちゃんと役に経てたことない気がする。
今も昔唯一できたのは近くにいることだけ。
依織を好きだと思ったときも、あなたをみる慈しむような目を見て諦めたのは確かだけれでも、それだけじゃない。
あなただから諦めれたのに。


もう、嫌だ。
あなたを独りにさせていないとこれじゃ言えはしない。
あなたの心の中は独りぼっちみたいだから。




頬にくる冷たい感覚に夏実は驚いた。
びっくと生理的な反応。
するとむぎの手から何かが落ちた。


「きゃっ…!?え?あ、ご、ごめんっ」


考え事をしていたせいで頭がすこしぼうっしていた。
むぎは決して健康とは言えない状態だ。
自分が気を抜いてはいけないのに…。
夏実は自分を責めた。
彼女は何も悪いことなどしていないのに。


「ううん、こちらこそごめん。びっくりしたよね?」


笑顔。
笑顔で謝るむぎに自責の気持ちは更に大きくなった。
なぜなら、笑顔は彼女のトレードマークのようなものだ。
それなのに、それはむぎらしくはなかった。
自分の不甲斐なさに、その事実に、泣きたくなって夏実は上を向いた。


「で、さっきの冷たいのは、結局なんだったの?」


気付かれない様元気に努めて言う。
それは成功したのかむぎはしゃがみこんで何かを拾っている。
太陽で目が乾いただろうか。
すこし痛かった。


「ほら、はいジュース買ってきたよ」




笑顔は逆に虚しかった。


はじめの内は元気と呼べる状態だった。
けれど、御堂家を出て、また家に戻ったあとからだ…。
やはりラ・プリンスの影響力はすごかったのだろうか。
瀬伊や麻生はともかく、依織や一哉とはもうなかなか会えない状態だからしょうがないか。
でも、どうしても会えないわけではないはずだ。
一哉は最近帰国していたはずだし、依織の下宿先をむぎは知っていると言っていた。まだ元気なときに教えようかと散々からかわれたのを覚えている。一哉に会いに行くのとは違いこちらは国内。電車ですこし我慢すれば行ける距離だ。


自分の力で笑顔にしてあげたいけれど。
それに意地になるつもりはない。
夏実は結局、むぎが笑顔にさえなったくれればなんでもいいのだ。


ジュース受け取ろうと手を出しながら何気なく夏実は言った。


「ねえ…会いに行かないの?」




またむぎはジュースを落とす。
本当に、危なっかしい。
ジュースを見ると炭酸飲料。
ジュースを拾い顔を上げて、文句の一つでも言ってやろうとむぎの顔を見る。


でも、文句なんて言えはしなかった。
むぎの顔は歪んでぐしゃしゃになっていたから。


「むぎ!?」


どこを間違えたんだろう。
むぎは先程までは一応、元気にはしていた。
それなのに、どうして?


「会いに…来るなって言われた」





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06.04.16