屋上でぼんやりと鉄柵の上で腕を組みその上に顎を乗せてぼんやりとし夕陽を眺めていると後ろから頭を掻き混ぜられた。
髪がぼさぼさにさるのを感じながらも相手の手の暖かさと大きさにどきどきした。
煙草のにおいがして、相手が誰かわかったのではない。
気配や足音でわかる。
まあ、それにこんな風に髪をぐしゃぐしゃにしてなでる人物なんてひとりしか知らない。
□未来を夢見て□
「先生も息抜きに来たんですか」
振り返らず言うと、くつくつ笑いながらよく俺だとわかったななんて言う。
わかるに決まっている。
好きだからあたりまえだと抗議すると、声をあげて笑われた。
もっと抗議してみると若さ故ってやつだなと思ってとばつの悪そうに紘人は語った。
決して馬鹿にしたんじゃないと言うが、子供扱いされた時点で馬鹿にされたのと変わらないと言ってみる。
紘人はそんな香穂子の発言を否定した。
「若いっていうのは『子供扱い』したわけじゃない。若いっていいなーっと懐かしく思っただけさ。素直に思ったことを口に出来るなんて羨ましいなってね」
抗議しようとか、そういうのではなく、紘人の方を見なくてはいけないような気がして振り向く。
紘人は煙草を吸っていて、渋い顔をするその姿は大人の顔で言葉を発することができなかった。
ぼんやり見つめていると見惚れていたのかと軽口をたたかれる。
事実、そうなのだが違うとめいっぱい否定するとニヤニヤしながらそうかそうかと繰り返し言われた。
否定することで反対に認めてしまった形になってしまった。
恥ずかしくてぷいっと横を向くと、やっぱり子供だなと言われた。
否定の言葉は出かかったけれど、発することはやめた。
どんなに自分が子供じゃないと言っても紘人から見たら子供なのだろうと思ったからだ。
それに、自分でも今のそっぽを向いた姿は子供っぽいとわかる。
「先生もでも子供っぽいですよ」
そりゃ、ありがとよと笑う紘人。
子供っぽいと言われてうれしいなんて変わっていると言うと好きな女と年が離れているんでねと耳元で囁かれる。
「『好き女』って私ですか」
反射的に聞くと苦笑いした紘人に答えられないと答えられる。
恨めしそうに見ると、前にも言ったろと諭された。
そうだったけれど、言葉がほしいと言う。
言葉とは具体的にどんなのだと聞かれたので答える。
「好きだ、とか愛してる…だとか俺の女になれとかです」
恥ずかしくなって俯きながらの発言。
また、笑われるのかと思いきや、上から降ってきた声は思いのほか低くて驚いた。
「そんなのが欲しいなら、俺以外の男を探すんだな。そんな言葉は若い奴しか言えないよ」
言葉は辛辣で息苦しくなった。
昔、紘人は愛した人に裏切られたとリリが話してくれたことがある。
その人のことを思い出したのだろうか。
顔をあげて見た紘人の目線は自分じゃなくて、夕日じゃなくてもっと遠くを見ていた。
そんな切なそうな顔をしないでほしい。
どうか、どうかこちらを見て、そして笑ってほしい。
そういう想いをこめて抱きつくと驚いたように紘人の目が見開かれた。
「こら、こんなところ誰かに見られたらどうするんだ」
胸に顔をうずめ、腕に力を入れた。
誰か来たってどうにもならないだろう。
ここは扉を開いてすぐに見える位置ではないのだから。
白衣の固い布感が制服越しに伝わってくる。
どうか、過去に紘人が引きずられないようにと力を入れた。
「お前さんは何にもわかっとらんな」
困ったように言う紘人の声に腕を緩めた。
顔をあげて謝ってみるけれども全然紘人の困惑したような顔はいつも通りの顔には戻らなかった。
「俺はな、教師なんだぞ。だから…」
それ以上聞きたくないと香穂子は首を振るが紘人は話をやめなかった。
「だからこの腕で日野、お前さんを抱き締めることさえ出来ないんだ。でもな、本当は『そういう衝動』に駆られるわけだ。その衝動を抑えるのは辛いもんだぞ」
顔を上げると、今度は聞くなよと釘を刺された。
はいと答えると頭を撫でられる。
これは子供扱いととることも出来たが、そうはしなかった。
「先生。私も我慢します。だからもう少しだけ、今だけこうさせて下さい…」
きゅっと紘人の腰に抱きつく。
紘人は相変わらずこちらに手をまわしてなどくれなかったが、紘人に触れているだけで香穂子は幸せだった。
あと、一年。
一年経ったら紘人の腕は自分を包んでくれるのだろうか。
少し不安ながらも、でも互いに腕を回す抱擁を夢みて抱きつく香穂子であった。
来年桜が咲くとき、その夢は叶うと知らない彼女と、彼女が自分に飽きてしまうのではないかと無駄な不安を感じている彼。
不器用な二人は一年後を夢見るのであった。
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題名いろいろあって思ってたのと違うのつけたんだが、なんかやっぱり変かも…そのうち変えるやもしれません。
08.09.24