時間を止める方法はないのだろうか。


空が少しずつだが明るさを取り戻し始めていたときむぎはそんな事を考えていた。
彼女は、どちらかと言えば昼や朝の青空のほうが夜空よりもすきだった。


けれど、今日の彼女は何時もとは違っていた。



一生朝なんて来なくても良かった。


世の中の人たちが困ろうと、異常気象だろうとなんでもいい。
今日から一生朝日はいらない。


そんな子供っぽいことを考えてもどうにもなるわけがないのについつい考えてしまう自分が憎憎しかった。





決別





「朝日…綺麗ですね」
葵は呟くように言った。


朝日は確かにきれいだとむぎは思った。
けれど今素直にうなずくことはできはしない。
こんなに矛盾した考えを持つようになったのは理事長と会ってからだ。
いや、敵なのに年の差もすごいのに一哉君の命を狙ってるのに、それなのに…好きになってしまってからだ。
ふと、顔をあげると先程まで暗くてあまり見えなかった葵の笑顔があって同意 したくなんてなかったのに。


「そう、ですね」


口は勝手に同意を表すその言葉を発しっていた。


「よかった」


何がと聞く前に葵は呟くように言った。


「朝日、嫌いなのかなと思ってしまいました」


「…え?」


どうしてと聞く前にまた、葵はむぎの言葉を遮るように言う。


「何故そう思ったのだろう、と顔に書いてありますね?君が、とても悲しそうな顔をしていたからですよ。私のせいで朝日が嫌いになりそうだと」
「……・・っ」



どうしてこの人はこんなに私のことをわかるんだろう。
どうして別れの合図の朝日をそんな穏やかな顔できれいだ何て言ったんだろう…。
まだ、会って間もない人のはずなのにもう、こんなに私を知っている。
それでいて、切なくなるようなことを言う。



急に葵の手が伸びてきてむぎは瞼を伏せた。
葵がキスしてくれるのかと期待してだったがただ葵はむぎの頬を撫でるだけだ。
いや、正確には涙をむぎのぬぐっていたのだ。
そこでやっとむぎは自分が泣いていることに気付いた。



葵を見上げると彼は困ったように微笑む。


「泣かないで下さい」


葵は翳りのある笑顔をただひたすらに悲しそうな顔に変えて言った。
そんな顔、見たくなんてなかったが自分の感情を抑えることも出来はしない。


「でも…っ」


葵の手がするりと頬から肩へ肩から腰へ移動し、ぐっと抱きしめられた。


「また、必ず会えますから」


意外、だった。
彼はきっと、私に別れを言いに来たのだと思っていたから。
年とか犯罪者だとかそんなことを理由にあの時みたいに『貴方は幸せになりなさい』って別れを切り出されると思ったから。
じっと目を見つめると彼もまた見つめ返してくれた。
涙を一生懸命止めてむぎは言った。


「…絶対、約束ですよ」


そこに甘さはなくただ葵の時計の秒針が音を立てていた。
間は空いたもの葵は柔らかく微笑んで答えてくれた。
「はい」と。



正直、信じられない。
それに忘れられるなら忘れてしまいたい。
苦い…苦しい、想い。
でもしばらく離れることになろうとも、変わることのないであろうこの想いは涙に変えて流すことが出来そうにない。
だから、彼の言葉を信じるしかなかった。
しばらく互いの家族のことについて話し、空気が和んだ頃。



葵は言った。



「目をつぶって下さい」


葵の言葉にむぎは真っ赤な瞳を閉じた。


予感、はあった。


けれど逆らうことは出来ずただキスならよかったのにと思いながら。
ただただ葵の気配を、温度を、待っていた。



靴音はしないのに時計の音が遠ざかっていく。
どれくらい時間がたったであろう。
もしかしたら数分かもしれないし何時間かもしれない。



目を開けたときもう、そこに彼はいなかった。




むぎはただぼんやりと朝日が綺麗だと思った。






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06.04.02