空に願う。
みんながしあわせになるようにと…






□ 赤い風船 □






トントンと階段を上る音が聞こえる。
その足音だけでむぎには誰が来たのかわかった。


「おかえり」


振り返らずにむぎは言う。
そうすると少し間があってから、


「ただいま」


と返事がきた。
それに続いて一哉は不思議そうに言った。
「何してるんだよ」と。


一哉は足元に転がっている風船のひとつを見ながらそう言った。
真っ赤な風船はもう数えるのが嫌になるくらい大量だった。


「ふうせん、ふくらましてるの」


むぎの隣にはゴム風船セットが5袋もあり、そのどの袋からも赤い色だけがなくなっていた。
そう、色とりどりのゴム風船セットから赤のみ選んでむぎは膨らましていたからだ。
それがいっそう一哉の目には奇妙に映った。
こんな寒空の中、風船を膨らましているだけでも奇妙なのに、5袋もゴム風船セットを買い、それぞれ赤だけ選んで膨らましている。
奇妙に映るのも無理はない。
それはとても奇妙な行動なのだから。


「ねえ、一哉君…」


ひとつ膨らんだ赤い風船を手に持ち、その風船を
ぽん、と一哉の方へ投げる。


「ふうせん、飛ばないね」


呟くように言ってむぎは笑った。


「当たり前だろ、馬鹿」


赤い風船を受け取った。
そして、またむぎのもとにかえす。


「うん。忘れてたの。
 ヘリウムガスないと風船は浮かばないんだってこと…」


受け取り損ねて地面についた風船は他の風船とまぎれてしまった。


「なんで風船つくてるんだ」


パーティーのための飾りというのなら赤ばかりではおかしい。
それにもうあと少しで一哉の誕生日という『今日』は終わってしまうところだった。
一哉が悩んでいるとむぎは笑って答えた。


「みんなにしあわせを分けようって」


怪訝そうな顔、説明を催促するような顔をした。


「『おめでとうのうた』て知ってる?」


「いや、知らない」


むぎの質問に一哉は即答した。


「そっか。『おめでとうのうた』…って、そういう歌があるんだ。
 その歌の中にね『こぼれそうになった幸せは 赤い風船に詰め込んで みんなの空に 飛ばしてください』ってあるんだ」


そして説明するより歌った方が早いかと、歌い始めた。


そして歌い終わるとむぎは拍手をし、こう言った。
「一哉君、お誕生日おめでとう」


一哉はむぎの手を握り、ありがとう、と呟く。
むぎの手はとても冷たく、それがとても温かかった。


「…遅くなってすまない」


「ううん。今日はただ、今日という日であるだけで幸せなんだよ。こんなに赤い風船を作らなくちゃいけないくらい幸せなんだよ…」


むぎは一哉の手を解き、腕をまわして抱きついた。


「ねえ、一哉君。おおげさだけどね、生まれてきてくれてありがとう」


飛ばなかった風の船には幸せがいっぱい詰まったまま、地面で風に揺れていた。
また明日、空に放ってあげようと思いながらむぎも幸せの中で揺れていた。









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おめでとう おめでとう ○○さん おめでとう
おめでとうの 歌声が手をつないで輪になって
あなたの周りをまわっています
こぼれそうになった幸せは赤い風船に詰め込んで
みんなの空に飛ばしてください
おめでとう ○○さん この感激をいつまでも・・・



このうた、だいすき。



07.02.19