声声声。
たくさんの声。
騒音、雑音、そのなかでたったひとつだけ。
愛しい優しい声。


「すずの声は心地いい」


口説き文句のようで、本音。
ぽろりとこぼしたそんな言葉。


「なら、あたしの声は440Hz?」


その言葉に返ってくる言葉に、驚いて腕の力が緩まったらしくむぎは瀬伊の腕から抜け出した。
固まっている瀬伊の顔を覗きこんで顔の横でピースをし、したり顔で驚いたでしょとむぎは笑った。


440Hzについて。
基準音だとか。
ちょっとした専門用語もただたどしくもいくらか話の中で出てきて。
三冊音楽関係の本を読んだって自慢して。
でも、結局わからなかったとか。
ころころと可愛らしい声で、口調で話す。
440Hzの声ではもちろんないけれど。
と、いうか多分440Hzの声がどんなものかわかってなさそうだったけど。
やっぱり一番心地のよい声。


「すず」


引き寄せて耳元で呟くと真っ赤になるのが可愛くて、もっとそんな顔を見たくて強く抱きしめるとくすぐったそうに身をよじり肩に顔を埋めて隠す。
そんなしぐさがまた可愛くて、そして自分の顔を見られないのも都合がよくそのまま言葉を紡ぐ。


「勉強してくれてありがとう」


身じろぐのを感じた。
何か言おうとしているのもわかったけれど自分の中の言葉が止まらなかった。


「頑張ってくれてありがとう」


「わかってくれようとしてくれて、ありがとう」


「今まで、誰も…君みたいなことは考えなかったよ」


「好きだよ」


「好き」


言葉がまとまらなくぽとぽと溢れてくるままに任せ、話す。


「どうして、こんなにしてくれるんだろ。不思議」


いつの間にか、聞く態勢になっていた彼女が口を開く。
当然みたいな口調で。


「そんなの…」


「好きだからだよ」


「もっと知りたい。全部知りたいの」


本当に言葉にならなくて、こんな風に言ってくれる子が側にいてくれている事実が、腕の中にいるという現実がただ、現実離れしているように瀬伊は思った。
が、これはいつまでも続く現実離れしたような現実のただの序章。
ふたりがふたりを思い合う限り現実離れしたような現実は続き、日常となるのだから。
しかし、瀬伊はそれをまだ知りはしない。
むぎも知らない。
ただ、ふたりが知っているのは互いの気持ちだけだった。






































□ 好き □







365 Themes 1-100/NOVEL





事実は小説より奇なり。




07.04.20